大判例

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東京地方裁判所 昭和46年(ヨ)2331号 決定

申請人

国鉄動力車労働組合

右代表者

目黒 今朝次郎

申請人

国鉄動力車労働組合

東京地方本部

右代表者

富田一朗

申請人

国鉄動力車労働組合

東京地方本部田町支部

右代表者

押留俊弘

申請人

荻原大和

外三七名

右訴訟代理人弁護士

田原俊雄

外一名

被申請人

日本国有鉄道

右代表者

磯崎叡

右訴訟代理人

真鍋薫

外三名

主文

本件仮処分申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

一使用借権について

本件ロッカーについて申請人ら組合員と被申請人との間に、使用貸借契約が締結されていることについては疎明がない。

疎明資料によれば、被申請人の物品管理規程および物品事務基準規程により、被服類、保護具類、時計等は職員に貸与することができるとされ、また備品(本件ロッカーは備品である。)を特定人にもつぱら使用させ、かつその責任において保管させる場合には備品専用票を備え、その使用および保管の状態を明らかにしておかなければならないとされていること、ここにいう備品とは、計算器、算盤、製図器、電気メガホン、電気掃除機、電気洗濯機等であり、ロッカーについては右のような手続はとられておらず、前記規程により単に物品出納員が備品配置票を備え、常に備品の配置状態を明らかにしておかなければならないとされているに過ぎないことが一応認められる。

右事実によれば、本件ロッカーについて申請人ら組合員は使用借権までも有するものではないといわざるを得ない。

二占有権について

本件ロッカーのように従業員各個人に更衣用としてその独占的使用が認められ、その鍵が与えられている物品であつても、これらは結局は営業目的遂行のために、使用者によつて企業施設内に設置され、施設の一環を形成しているものであるから、占有という観点からみたとき、従業員は使用者の占有補助者に過ぎないと認めるのが相当である。

前記のとおり、申請人らは本件ロッカーの使用借権者とは認められないから、占有代理人とはいい難い。

従つて、申請人ら組合員は本件ロッカーについて占有権を有しない。(もとより被申請人としても、みだりに本件ロッカーを開けることは許されないが、それは申請人らに占有権があるからではなく、私生活の保護という別個の法益に由来するのである。)

三団結権について

団結権から具体的な妨害排除の請求権が発生するものとは解し難い。

四結論

以上申請人らの被保全権利についてはいずれも疎明がないものというべく、保証をもつて右疎明に代えさせることも相当でないから、本件仮処分申請をいずれも却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(矢崎秀一)

申請の趣旨

一被申請人は、申請人らの所属組合員が職場において使用占有している更衣用ロッカーに別紙手ぬぐいをつり下げることを妨害し、あるいつり下げられた右手ぬぐいを撤去してはならない。

二、被申請人は、申請人らの所属組合員が職場において各組合員に貸与されていた更衣用ロッヵーを使用占有するのを妨害してはならない。

との仮処分決定を求める。

申請の理由

一、(当事者)

被申請人は、日本国有鉄道法にもとづいて鉄道事業等を営む公共企業体である。

申請人国鉄動力車労働組合(以下申請人組合という)は、被申請人の職員等で組織されている労働組合であり、申請人国鉄動力車労働組合東京地方本部(以下申請人東京地本という)は、主として被申請人東京南、北、西各鉄道管理局管内の職員をもつて組織している申請人組合の地方本部であり、申請人国鉄動力車労働組合東京地方本部田町電車支部(以下申請人田町支部という)は、主として被申請人田町電車区の職員をもつて組織している申請人東京地本の一支部(組合員四一名)である。

二、(申請人組合による抗議行動実施)

申請人組合は、今年の五月二〇日、大幅賃上げ獲得、「生産性向上研究会」(いわゆるマル生運動)による組織破壊粉砕等を闘争のスローガンとして掲げつつ、東京都内の国電全線を中心とするストライキ闘争を闘い抜いたのであつた。

ところで、右ストライキ闘争に対する国鉄当局による処分攻撃が七月上旬に予定されたことから、申請人組合は、昭和四六年六月二二日、中央本部闘争指令第三七号をもつて、申請人東京地本に対して、不当処分通告がなされた日以降、三日間の順法闘争を含む抗議の諸行動を実施することの指令を発した。

申請人東京地本は、右本部指令に基づき昭和四六年六月二六日付地本闘争指令第二六号、同年七月七日付地本闘争指令第二七号をもつて、申請人田町支部をはじめとする東京地本全支部に対し、七月八日始発から同月一〇日二四時までの順法闘争指令およびその他の抗議のために「あらゆる戦術を効果的に複合し」た抗議行動をなすことの指令をなし、さらに口頭において、ワッペン行動(生運研粉砕などと記入したワッペンを更衣用ロッカーに貼布したり、着衣につけたりする)や、本件で問題になつている手ぬぐい行動など従来から行なわれて来た闘争戦術を駆使して抗議行動を行うべき旨の指示をなした。

三、(申請人田町支部における抗議行動)

国鉄当局は、七月七日、五・二〇ストライキ指導、参加等を理由として、申請人組合に対し、解雇一五名(うち東京地本五名)を含む総計二四四〇名の大量処分を通告して来たため、申請人組合は、全地本、支部において一斉に三日間の順法闘争を含む抗議行動に突入した。

申請人田町支部組合員については、四一名の組合員中、支部執行委員長押留俊弘が解雇され、組合員二九名が減給処分に付されるという大量処分を受けた。

そこで申請人田町支部は、地本指令に基づき右処分に対する抗議の闘争を展開し、七月八、九、一〇日の三日間にわたつて全組合員が順法闘争に入るとともに、七月八日以降、「ワッペン行動」・「手ぬぐい行動」という抗議の行動に取り組んで来た。

「手ぬぐい行動」というのは、各組合員がサラシ布をもつて手ぬぐいをつくり、これを手ぬぐいとして使用するとともに、その手ぬぐいに別紙のように、「不当処分撤回せよ!」「マル生運動粉砕!」「スト破り許さないぞ!」などと各自がマジックで記入したうえ、各組合員に貸与されている更衣用ロッカーのとびらにはさんでつり下げることをいうのである。

四、(申請人田町支部組合員による更衣用ロッカーの占有・使用の状況)

本件手ぬぐい行動がなされた更衣用ロッカーは田町電車区本庁舎二階ロッカー室内にある。更衣用ロッカーは、田町電車区開業以来今日に至るまで、田町電車区に勤務する全職員に貸与されているものであり、主として出退区の際に更衣服等の所持品、身のまわり品類を保管するものとして使用されている。

ロッカー室の貸与は、申請人田町支部組合員についていえば、田町電車区職員となつた際に、ロッカーを指定され、鎖錠するための鍵を与えられることによつてなされており、転勤、退職等によつてロッカーを使用しなくなつたときは鍵を返却してロッカーを明け渡すこととなつている。

したがつて、一度貸与されたロッカーは各組合員の占有下におかれることになり、ロッカーを破損しない限りにおいては各組合員の自由な使用に委ねられて来ているのである。従来田町支部において、各個人が使用した手ぬぐい類を、ロッカーのとびらにはさんでつり下げておくことについて区管理者から何ら注意を受けたこともない。

また、国鉄職場においては、闘争時にワッペン類を更衣用ロッカーのとびら部分に貼るということは、闘争戦術として極めて多くとられて来ている。これに対する当局者の妨害(ワッペン類の撤去)はなされたことはあるが、昭和四六年四月三日には函館地方裁判所において、国鉄当局に対し、「組合員が職場において使用占有している更衣用ロッカーおよび事務所机引き出しにワッペンを貼ることを妨害し、あるいは貼付された右ワッペンをはがしてはならない。」との決定がなされているのである。

したがつて、本件手ぬぐい行動についても、更衣用ロッカーの適法な占有使用の範囲内の行動としてなされたわけである。

五、(被申請人による「手ぬぐい行動」に対する妨害)

ところが、田町電車区当局者は、七月八日以降、申請人田町支部組合員が「手ぬぐい行動」を開始するや、一〇日には、業務掲示板の掲示および各組合員に対する通告書をもつて、手ぬぐいにつき即刻撤去せよ、撤去しない時は勤務成績査定の対象とすると同時に管理者側においてロッカーを開き撤去する旨通告し、一一日、一二日には一〇名近くの組合員の更衣用ロッカーの鍵を無断で開けて、手ぬぐいを撤去するという実力行使に及んだ。

そこで申請人田町支部は、七月一三日、動力車田町支部指令第五号をもつて全組合員に対し、七月一五日〇時以降一斉に手ぬぐい行動を行なうべきことを指示した。

これに対して、田町電車区当局者は一六日、ロッカーへの手ぬぐいの掲出は違法である、ロッカーは業務上必要であるから貸与したのであつて組合活動のために貸与したものではないとして、手ぬぐいの即時撤去を通告し、組合側がこれを拒否するや、同日一三時三五分ころ、組合員が使用中のロッカーであつて手ぬぐい掲出中のもの(三二名分)を、当局者が保管している予備鍵で開けて、手ぬぐい三二本をとりはずし持ち去つた。

さらに一七日には、再度組合員がつり下げた手ぬぐい一一名分撤去するとともに、申請人田町支部組合員で結成している野球部部員用ロッカー使用を右手ぬぐい行動を理由として停止する旨通告し、実力で野球部員供用のロッカーを閉鎖した。

その後も組合側が手ぬぐいをロッカーにつりおろすと直ちに撤去されるという状態が七月二二日まで継続している。

そのような事態のなかで、二一日電車区当局者は、右手ぬぐい行動を理由に、申請人田町支部組合員のうち乗務員会会員のロッカー使用等の便宜供与を停止する旨通告し、実力で組合員のロッカー使用妨害を行なうことを言明して来ている。

そのほか、順法闘争に参加したこと等を理由として乗務停止処分を受けている田町支部組合員二人に対し、電車区当局者は、手ぬぐい行動参加を理由にして、右処分の解除を認めないことを表明しているなど、本件手ぬぐい行動に対する当局者の妨害活動は、極めて悪質であり、手ぬぐい行動を口実にして、五・二〇ストライキ処分に対する抗議闘争弾圧、組合運動への支配介入、組織の弱体化を意図しているとしか考えられない態度をとり続けている。

さらに、附言すれば田町電車区当局者は、昨年一二月から本年二月にかけて、組合掲示板から数十回にわたつて掲示物のはぎとりを行なつたため、本年五月一八日、東京地裁民事六部において掲示物撤去禁止の仮処分決定がなされているなど、その組合活動に対する支配介入は極めて意図的なものがある。

今回の手ぬぐい行動についても、東京地本の他の電車区支部では格別の問題を生じていないのに、田町電車区の当局者のみが右のような妨害活動に出ているわけなのである。

六、(保全の必要性)

申請人らの取り組んでいる「手ぬぐい行動」は、朝日新聞においても三池闘争以来の大量処分と報道された、五・二〇ストライキ闘争に対する不当処分へのささやかな抗議の闘争としてなされているものである。

さらにその行動の形態も、ロッカーに手ぬぐいをつり下げるというものであつて、組合員に貸与されたロッカーの適法な使用権、占有権の範囲内の行動にすぎない。

しかも本件ロッカーは、国鉄職員以外出入することの全くありえないロッカー室にあるものであり、職員の動務には何らの支障もないことはもとより、乗客その他第三者への影響は全くない。

しかしながら、支部組合員にとつては、被申請人による大量不当処分に抗議し、あわせて、最近のマル生運動による一連の組織破壊に抗議し、組合員の団結の意志を再確認し、組織防衛、団結を強化するための最少限の行動として本件手ぬぐい行動がなされたわけであり、その行動は憲法二八条、労組法七条等によつて保証されている団結権の行使であるとともに、憲法二一条の表現の自由によつても保障されている正当な行為であるといわなければならない。

ストライキ権などの争議権を否定された国鉄労働者が、右のようなささやかな闘争をも認められないとしたら団結権の保障などといつてもそれは全く絵にかいたモチにすぎなくなつてしまうであろう。

申請人らとしては、五・二〇闘争に対する大量処分への抗議闘争として手ぬぐい行動を継続する緊急の必要性に迫られている。

申請人らは、本件ロッカーの占有・使用に対する被申請人の妨害を除去するための本訴を提出すべく準備中であるが、本案判決をまつていては、右占有侵害の状態が長期間継続し、組合活動上回復しえない損害を蒙るので、申請の趣旨記載の仮処分決定を求めて本申請に及んだ次第である。

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